unknown

フィクションであれ

20221012

誠実さだけを考えていたいと、人のいない地下鉄のホームでぬるい風を受けながら考えた。心理学部の好きな准教授の言う「あと10年生まれるのがはやかったらな、結婚してたな」の現実性のない10年という数字が心地よかった。以前に寝た、恋ではない男のことを、その日のことを考える私がいた。友人に借りた江國香織の「ウエハースの椅子」を読みながら、ぼーっとしながらコーヒーを飲んで煙草を吸って、自分がどんどん現実のこの世界に生きてない人間のような気がしてきて怖かった。あまりにポエジーな世界の見え方が全く現実味を帯びていなくて怖い。こんなセリフを吐くのも、小説の中の人間だけだと思っていた。恋人以外と寝る夜は恋やときめきをともなわないに限ると考えていた。その方が楽だし、一時的な仮初のピロートークも嫌いじゃないけど、そうじゃなく、そうしてときめく人間とセックスをしたいと思えてきてしまった。いいことかどうかは知らない。恋だと思えば恋なのだというのならこれは恋だ。会いたい人がいる。そうしようと思ってしたわけじゃないけど、お酒も飲んでいたから、一度だけ少し熱を持った視線を送ってしまった時のあの顔を覚えてる。別に今は恋でも愛でもないけど、もしあの人からそういうものが私に向くのであれば、私がそれを受け取れるかどうか試してみたいと思う。まだ忘れられない彼がいるというのは、新しい状況への足枷だ。忘れられないことと好きであることは別であれる。忘れないまま私はこれから別の誰かを愛することになるというのに。

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