unknown

フィクションであれ

20221020

これを恋と呼んじゃいけない。

私が人生のエンディングソングにThe Beatlesの"Here, there and everywhere"を選んだように、彼の思う彼のエンディングソングであるGoing Steadyの"Baby Baby"に他意はない。彼にとっての誰かが消えてなくなりそうなイリュージョンなのだし、誰かのために永遠に生きたいのだし、誰かを抱きしめていたいのだろう。

彼が私にこうして私と話せて嬉しいと伝えてくれるのも、考えて気づいて行動するあなたを見ているのが好きだと言ってくれるのも、彼ではなく酒を飲んだまやかしの何かだと思った方がましだ。

倉敷のコーヒーのおいしい喫茶店を教える約束も、太宰の人間失格を貸す約束も、帰り際の彼との口約束でしかなく、私がその約束を果たさなくとも彼は困らず、そして何事もないかったように進む時が憎い。

彼はただの、29歳の、恋人がいるけど「色々ある」と言う、金のインナーが入って髪が長くて、OasisGoing Steady(銀杏BOYZ)とCigarettes After Sexが好きな、アークロイヤルを吸う、お香の匂いのする、私を○○さん呼ぶ、言葉下手な、私の誕生日によかったらコーヒーを飲みませんかと誘ってくれる、ただの、ただの仲のいい行きつけのバーのバーテンダーだ。

 

友人の家に行くために夜中鴨川沿いを歩こうと、そこまでの階段を登ったとき、一瞬空だけが見える瞬間があった。このまま登れば星の中に歩いていけそうだった。そのまま登ってしまえればよかった。それでよかった。